今日からマ王 第11巻 息子はマのつく自由业.docx
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今日からマ王第11巻息子はマのつく自由业
息子はマのつく自由業!
?
喬林知==著
本文イラスト/松本テマリ
[#改ページ]
男の子なんてほんとにつまんない。
[#改ページ]
小さい頃《ころ》は母親べったりだったくせに、ちょっと声が変わったと思ったら、すぐに自分一人で大きくなったような顔をしだす。
そうなるともう、|一緒《いっしょ》にショッピングに行くどころか、あたしの選んだ服なんか着ようともしない。
大学生の長男は無難だけど、問題は下の腕白《わんぱく》息子《むすこ》。
父親|譲《ゆず》りの最悪ファッションセンスで、毎日、青系のTシャツばかり。
これでもどうにかして女の子らしく育てようと、小さい頃からいろいろ試《ため》してはみた。
部屋中をピンクで統一し、可愛《かわい》い玩具《おもちゃ》を持たせたり、伸《の》ばした髪《かみ》をウサギちゃんみたいに結って、幼《ようち》稚園《えん》に通わせたりもした。
でもまるっきり無駄《むだ》。
見た目はあたし似でまずまずなのに、ベースボールバカな父親がリトルリーグに放《ほう》り込んだものだから、中学生になる頃には、がさつなアウトドア派が出来上がっていた。
まあ、野球少年も|爽《さわ》やかで|礼儀《れいぎ》正《ただ》しくて、青春!
って感じでいいんだけど……どうもあの|汗《あせ》の|輝《かがや》きの「キラキラ」は、あたしの求める「キラキラ」と本質的に違《ちが》う気がするのよね。
「……っだいィ」
まー、まで言わずに次男がドアを開けて、玄関《げんかん》から居間まですーっと通り過ぎた。
フローリングにじっとりと濡《ぬ》れた|足跡《そくせき》が残る。
ソファーで仰向《あおむ》けになって寝《ね》ていたお座敷《ざしき》雑種犬二|匹《ひき》のうち、|先輩《せんぱい》格のシアンフロッコが|両脚《りょうあし》にまつわりつく。
年下のジンターはお腹《なか》を天に向けたまま、撫《な》でてもらえるのを待っている。
「ちょっとっ、ちょっとゆーちゃんっ」
下の息子の名前は|渋谷《しぶや》有利《ゆーり》恵比寿《えびす》便利《べんり》。
語呂《ごろ》も語感も|縁起《えんぎ》も良くて、我ながら|大傑作《だいけっさく》なネーミングだと思う。
残念なことに名付け親はあたしじゃなくて、超《ちょう》かっこいい海外のフェンシング選手なんだけど。
「ゆーちゃん何で学生服びっしょりなの!
?
雨降ってるんなら教えてくれなくちゃ」
「降ってねーよ」
「じゃあどうしてずぶ濡れなのよ。
あっもしかしていじめ!
?
いじめなの?
大変、ゆーちゃん学校でいじめられてるの?
」
「ちがうよ」
きまりの悪そうな顔をして、ばれたからには仕方がないと思ったのか、上りかけた階段から右足を戻《もど》す。
排水溝《はいすいこう》の臭《にお》いは気のせいだろうか。
「やだ、気のせいなんかじゃないわよ。
ほんとになんか臭うわよゆーちゃん。
どうしちゃったんだか知らないけど、とにかくお風呂《ふろ》、お風呂入ってからじっくりいじめの話を聞かせてもらいますからね」
「だからー、いじめじゃねーって。
えとそのぉー公衆便所にはまったんだよ」
「はい?
どうやったらトイレで全身ずぶ濡れになれるのかしらー?
最新鋭《さいしんえい》のシャワー式便器かしらー?
隠《かく》さなくてもママにはちゃんと判《わか》ってます。
ゆーちゃんママ似で可愛いから、僻《ひが》んだ子達が理不尽《りふじん》ないじめに走るのよねッ!
でももう|大丈夫《だいじょうぶ》、いじめは絶対に許さないから。
明日にでもママ学校に押し掛《か》けるからっ」
「高校生にもなってそんなことしてるヒマな奴《やつ》いねえよ!
呼び出されてもないのに親が学校に来たりしたら、おれはこの先一生、笑いもんだぞ!
?
」
「親じゃなくて、ママ」
あとで聞いた話だけど、息子はそのときお友達のムラケンくんを助けるために、不良と一戦やらかしたらしい。
でも、濡れ鼠《ねずみ》の有利をバスルームに押しやりながら、あたしは半ば|呆《あき》れていた。
ねえほんとに、こんな調子で大丈夫?
美少年タイプじゃないところを除《のぞ》けば、そりゃあ確かに|自慢《じまん》の息子よ。
ちょっと短気だけど正義感が強いし、成績は悪いけど頭の回転は速い。
気が小さいけど勇気はある。
野球と野球と野球と女の子のことしか考えてないけど、人生は楽しいと思ってる。
改めて|誰《だれ》かに言われなくても、この世界のあらゆることが|素晴《すば》らしいって、本能で感じ取って生きている。
「ゆーちゃんは自慢の息子よ。
ママとパバの大傑作」
でもねえ、ほんとに、これで|特殊《とくしゅ》な職業になんか就《つ》けるのかなあ。
ことの|発端《ほったん》は二十年ほど前に聞かされた話で、それ以来、あたしの疑問は今日まで解決されずにいる。
つまりこういうこと。
羽根は……?
あとで聞いた話だけど。
そのとき、本人はもう心を決めちゃっていたらしい。
年が明けて何回目かの待ち合わせで、二十分は|遅《おく》れて行ったあたしに、やたらと豪勢《ごうせい》なカップで紅茶が運ばれてきた。
「ごめんねっ、昨日の夜なんだか|眠《ねむ》れなくてさ。
こんな真冬だってのに耳元で蚊《か》がね……蚊が……かが……」
「ひゃくまんごく?
」
加賀百万石?
もしかしてこの人はオヤジギャグ男なのかと、|瞬間《しゅんかん》的に身を引いてしまう。
相手はそこそこ有名な大学の四回生で、あまりガツガツしたところのない|平凡《へいぼん》な男子だった。
中肉中背で身体的に秀《ひい》でたところはなく、顔も特に格好いいとは言い難《がた》い。
声をかけられた時の第一印象は、あっ、プチ垂れ目!
という大変申し訳ないものだった。
イタリア男の下がった|目尻《めじり》は実にセクシーだが、日本人の垂れ目は人柄《ひとがら》の良さしか感じさせない。
従って異性としての魅力《みりょく》を|尋《たず》ねられれば、同じサークルのK大生のほうが数段上だった。
でも、お洋服のセンスの悪さと名前のインパクトにかけては彼の一人勝ちで、今にも風花が|舞《ま》いそうな|曇天《どんてん》にもかかわらず、この日も黄色と緑のチェックパンツという出《い》で立ちだった。
生地《きじ》は明らかに夏物だ。
氏名はシーズン違いではなかったが、学生サークル間で当時はやっていた、偽物名刺交換《にせものめいしこうかん》をした|途端《とたん》に噴《ふ》き出してしまった。
「渋谷……かっ、勝ち馬さん?
」
「いや、勝ち馬じゃなくてショーマだけど。
どっかの競馬新聞と一緒にされると困るんだけどね。
そちらこそ……名前がジェニファーって……家族構成複雑?
」
「えー、だってコンピューター占《うらな》いでニックネームをジェニファーにすると、運が開けるって言われたから」
「ははあ、占いね」
他《ほか》の皆《みんな》みたいに鼻で笑ったりはせず、渋谷勝馬(かちうまじゃなくてショーマ)くんは訳知り顔で|頷《うなず》いた。
ナンパしてきた平凡男のこの態度が、二度目に会うのをOKさせた理由かもしれない。
ともかく通算五回目の紅茶専門店で、渋谷勝ち馬くん通称《つうしょう》ウマちゃんは|衝撃《しょうげき》的な告白をした。
当時大流行の真ん中分け|前髪《まえがみ》の向こうから、たいしたことじゃないんだけどと前置きし、彼は自分が人間ではないとうち明けた。
「やー、実は俺、|魔族《まぞく》なんだわ」
「え?
」
聞いた途端にイメージ映像が展開し、即座《そくざ》に質問が飛び出していた。
「羽根は?
ねえウマちゃん、羽根」
「はあ?
」
「羽根はあるの」
「ねえよ」
|虚《きょ》を衝《つ》かれたような|間抜《まぬ》け顔で、彼は短く否定する。
いっぱしの女子大を卒業しようという二十二の女にしては、予想外の|反撃《はんげき》だったらしい。
「なーんだ、ないのかぁ」
「絶対にないとは言い切れないけど、少なくとも俺は羽根のある子供が生まれたって話は聞いてないな……て、ちょっと待てジェニファー。
こんな非常識な話を|普通《ふつう》あっさり信じるかな」
|冗談《じょうだん》でしょと笑うとか、ノリのいいとこを見せてしばらく話に付き合うとか、その程度の反応を期待していたのだろう。
なのにあたしときたら目の前で、砂糖とレモンを節操なく入れながら、|諦《あきら》めきれない顔をしているし。
「だって、|嘘《うそ》なの?
」
「いやいや、ホント。
正気。
偽《いつわ》りナシ」
「でしょ?
しかもイメージから言ったら、黒くて優雅《ゆうが》なばっさばっさ飛べる羽根でしょ?
」
「なんだそりゃ……女の子の描《えが》く魔族像ってそんなもんなのか」
「だからー、ふわふわはねはねルシファー様なのか、ペタペタコウモリ黄金《おうごん》バットなのか、触《さわ》って確かめたかったの」
お前ちょっとどっかネジが緩《ゆる》んでいるのかと言いたげに、|眉間《みけん》に皺《しわ》を寄せてみせる。
でも|瞳《ひとみ》の奥の心に近い部分では、|好奇心《こうきしん》が点滅《てんめつ》してるみたいだった。
これはあとで本人に聞いた話だけど、彼は父方のお祖父《じい》さんから「|伴侶《はんりょ》選びは|慎重《しんちょう》に」と、耳にタコができるほど言われていたらしい。
ところがあたしの|唐突《とうとつ》な質問で、そのお説教が頭から消えてしまったのだとか。
でもね、あたしに言わせれば最初に会ったときから、ウマちゃんはちっとも慎重な態度なんかじゃなかった。
初めて口をきいたのは、ユニバーシアードの会場案内をしていた彼(魔族なのにボランティアだ)に、フェンシングで出場していたあたしが道を|訊《き》いたときだった。
初対面の相手だというのに、なんかどうもターゲットロックオンって眼《め》をしていた。
自分としては美人だからかなと自惚《うぬぼ》れていたのだが、後《のち》に酔《よ》わせて白状させると、あの時はあたしのお尻《しり》を見て、なんという安産型だろうと感嘆《かんたん》していただけらしい。
なんとも失礼な話である。
話題は彼の家系から世界の魔族へと、ワールドワイドに広がってゆき、忘れられた紅茶はどんどん冷めて、レモンの果肉まで赤く染まってしまった。
「じゃあもし奥さんができて子供が生まれたら、その子は魔族と人間のハーフなの?
」
「さあ。
生まれてみないと判《わか》んねーなぁ。
俺自身、じじいは魔族だけどばーさんは|普通《ふつう》の人間だし。
親父《おやじ》は未《いま》だにどっちなのか判別できねーし」
あたしは細くて|華奢《きゃしゃ》なスプーンを手にしたまま、焦《じ》れて少々高めの声を上げた。
「どっちなのかって、そんな適当なぁ。
頭に6が三つあるとか、そういう目印があるんでしょ?
」
「そりゃ、あまりにありきたりだろ。
血族に子供が生まれた場合、先人にはそいつがどうなのかが判るっていうんだけどさ……俺んときはじーさんも、こりゃそうだってんで大喜びだったらしいが、弟二人は|微妙《びみょう》に薄《うす》い感じなんだと」
「……薄いっていうと、髪《かみ》とか?
」
「|違《ちが》うって」
「変なの」
「まあ魔族っていってもさ、他と大して|違《ちが》いがあるわけでもないんだし」
例えばうちの曾《ひい》祖母《ばあ》さんは九十七まで生きたが、婿《むこ》養子《ようし》の曾《ひい》祖父《じい》さんは百を越えた。
|一般《いっぱん》的に長命という|特徴《とくちょう》はあるようだが、それだって人間とそう差があるわけでもない。
魔族だからどうなのかと言われても、明確な答えは返せそうにないよ、と、彼は頭の後ろで指を組み、店の|雰囲気《ふんいき》を無視して|椅子《いす》を鳴らした。
あたしはすっかり冷えたレモンティーで喉《のど》を潤《うるお》してから、国際平和に関する重要な質問を口にした。
「魔族ってやっぱり世界|征服《せいふく》が目標なの?
人間を悪の道に引き込んで、世界を裏から操《あやつ》ってるの?
」
「まあ俺達だって、|牛耳《ぎゅうじ》ろうと努力はしてますよ。
一方では土地を転がし、また一方では金融《きんゆう》相場に介入《かいにゅう》しー」
なにそれ。
それじゃ単なる経済活動だ。
「ええー?
美女を誘惑《ゆうわく》して夫を裏切らせたり、子供を攫《さら》って生き血をすすったりしてるんじゃないんだ」
「よせよ、そりゃ魔族じゃなくて|悪魔《あくま》だろ」
魔族と悪魔、と並べて言われて、典型的な悪魔像を思い出してみる。
ええと、山羊《やぎ》の鬚《ひげ》、山羊の角、鬚じゃなくて角だけだったっけ。
それとも両方だったっけ。
指はどうだったろう。
顔も胴体《どうたい》も足も山羊なのに、指先だけ人間ということはなさそうだ。
でも蹄《ひづめ》じゃ美女を誘惑できないし。
目の前の、美女(あたし)と歓談《かんだん》してる大学生は、誘惑しないと言ってるし。
「あーあ混乱してきちゃった。
もうさっぱりわかんない」
「実は俺も、父親も祖父も大《おお》叔母《おば》も曾祖母もその父親もその兄も漠然《ばくぜん》としか判らないんだよな。
俺達魔族は世界中に結構いっぱいいるけど、悪魔って種族に会ったことは一度もないのよ」
「うそ、じゃあ対立とか、抗争《こうそう》とか、仁義なき闘《たたか》いは?
」
「とりあえず相手がいないとできなさそうだな」
「そうよね、ああいうのは組織対組織だもんね……あっ」
組織という言葉でぴんときて、あたしは勢い込んで|尋《たず》ねた。
「じゃあウマちゃんたちの組織のトップって|誰《だれ》?
ひょっとして|魔王《まおう》は本当にいるの?
」
その質問なら簡単という|口振《くちぶ》りで、勝馬くんは得意げにこう言った。
「いるよ。
何度か会ったことある。
俳優の、えーと誰だっけ、『タクシー・ドライバーやってた役者。
ああそうそう、ロバート・デ・ニーロ、あれにそっくり。
まさか本人じゃないだろうけどさ」
このときより少し後になるけど、デ・ニーロはミッキー・ロークと共演した映画で、人間っぽい魔王を演じていた。
それはともかく、またしてもあたしは彼の予想を大きく裏切ってしまったようだ。
あっさりと事実を受け入れた上に、お気に入りの名前が出て大喜び。
「|凄《すご》い!
一番|偉《えら》い魔王がデ・ニーロなの?
じゃあアル・パチーノは?
」
「あいつも|怪《あや》しい」
「じゃあじゃあっ、ショーン・コネリーは?
トミー・リー・ジョーンズは?
」
「あの辺は天使くさいなぁ」
「それじゃケビン・ベーコンはっ」
「なんかそこまでいくと自分の|趣味《しゅみ》で訊いてないか」
信じられない話だろうけど、その当時のケビン・ベーコンといえば、現在でいうブラピのような位置にいたのだ。
「ちょっともうなんだか楽しくなってきちゃったよー。
だってハリウッド俳優激似の魔王がいるのに、普通に日本人で垂れ目気味のウマちゃんも魔族なんでしょ」
「そういうこと」
「それで子供が魔族かどうかは、生まれてみるまで判らないんでしょ」
「そういうこと」
「でも、絶対に羽根がないとは言い切れない、という」
「……そこんとこ|曖昧《あいまい》で申し訳ない」
結局、最初の疑問に戻《もど》ってきてしまい、あたしはソーサーの上で意味なくティーカップを回した。
元々そこが知りたかったのに。
こうなったらどうしても彼の子供の背中を見たい。
いやいっそ生まれるところに立ち会いたい。
それでふわふわ羽根かペタペタ|翼《つばさ》かを|確認《かくにん》させてもらい、記念として写真もお願いしたい。
そのためには彼が家庭を持ち、少なくともジュニアが誕生するまで、理想的な友人関係を維持《いじ》しなくてはなるまい。
もっと万全《ばんぜん》を期するためには、彼の奥さんとも友情を育《はぐく》んでおくことが必要だ。
だって余程《よほど》親しい間柄《あいだがら》でなければ、分娩室《ぶんべんしつ》になんか入れてくれるはずがない。
「……勝ち馬くん」
「しょーまくんね」
「そうね、ウマちゃん。
あのー、年上の女性と付き合う気ない?
」
彼は人差し指で頬《ほお》を軽く掻《か》き、二秒くらい|唸《うな》ってから瞹昧に答えた。
「やぶさかではありませんね」
「それはどっち。
好き、きらい?
」
あたしの中にはそれこそ悪魔的な計画が|浮《う》かんでいた。
この際、当人達の気持ちは無視だ。
だってどうしても羽根が見たいんだもん。
「もしかして、他《ほか》の女……ひょっとして自分のお姉さんと付き合わせようとしてる?
」
「ああー魔族に心の中を読まれたかも」
「そんな|特殊《とくしゅ》能力ないけどさ。
明らかに企《たくら》んでますって顔してるし」
|僅《わず》か十秒で作戦失敗。
白いテーブルに突《つ》っ伏《ぷ》して、解明し損《そこ》ねた謎《なぞ》を思い描《えが》いた。
キューピーちゃんみたいに小さいのがくっついてるだけかもしれないし、もしかしたら百万人に一人の確率で、|優雅《ゆうが》な黒羽が生えているのかもしれない。
この先の研究を誰に託《たく》そうかしら、えーと、まだ見ぬ未来の探究者よ、先人が死ぬ前には答えを見つけて欲《ほ》しいな。
しばらくあたしの旋毛《つむじ》を見ていた勝ち馬くんが、面白《おもしろ》がるみたいな声で会話を再開する。
「あのさ」
「なーに」
「なんで俺はデートの最中に、違う女の子を|紹介《しょうかい》されようとしてるわけ?
」
「だって魔族の赤ちゃんに羽根があるかどうか、今すぐにでも見たいんだもの。
うちのお姉ちゃんは二十九で、相手さえいればいつでもGO!
って毎日言ってるから」
「じゃあご自分で確かめたら?
」
「そんな……|駄目《だめ》よ、あたしは魔族じゃないもん」
「こりゃ|奇遇《きぐう》だね、幸いなことに俺は魔族だよ」
「うん、でも年上は躊躇《ちゅうちょ》するんで……ちょっと待って、あたしウマちゃんと同い年よね」
「あー俺|一浪《いちろう》してっから、一個上かな」
「そっ……ああっでもやっぱりダメっ!
シングルマザーで魔族と人間のハーフ育てるなんて|無謀《むぼう》すぎるわっ」
もしかしたらもの凄く大食いかもしれない、またあるときは|超音波《ちょうおんぱ》で泣き喚《わめ》くかもしれない。
目を離《はな》した|隙《すき》に勝手に庭に出て、トカゲや鼠《ねずみ》を捕《つか》まえて誉《ほ》めて誉めてーって|擦《す》り寄るかもしれない。
ああ、一人じゃとても無理!
「じゃあ是非《ぜひ》とも|結婚《けっこん》しよう」
「でもトカゲや蛙《かえる》を木の枝に刺《さ》して、それっきり忘れちゃうかもしれないのよっ!
?
」
「それ|違《ちが》う生物じゃねーかな。
さすがに俺は木の枝には刺さなかったから。
もしかしてモズ?
もしかしなくてもモズ?
念のためにもう一度言うけど、俺と結婚しようや」
はあ?
あたしの頭の中でカウントが始まった。
数字が一個一個増えてゆき、最終的に5で止まる。
「だって勝ち馬くん、今日で会うのまだ五回目よ?
」
「|年齢《ねんれい》より先にそっちを数えたかー。
じゃあまだ五回目だから、まず婚約《こんやく》しよ」
「……まっ、待ってちょっと」
渋谷勝馬はテーブルに肘《ひじ》をつき、僅かに腰《こし》を浮かせて身を乗り出している。
|右腕《みぎうで》はこちらに差しだされ、アームレスリングの挑戦者《ちょうせんしゃ》みたいな体勢だ。
スタローンというより阪神《はんしん》の真弓《まゆみ》似のプチ垂れ目で、何がそんなに嬉《うれ》しいのか満面の笑《え》み。
「ご、五回目で……」
あたしは勝負前の|緊張《きんちょう》に震《ふる》える指全部で、魔族の手首を鷲掴《わしづか》みにした。
「五回目でプロポーズする、その心意気を買うわっ!
」
レディー、ゴー!
「よーし、じゃ結婚しようぜジェニファー」
「……ごめん、ウマちゃん……本名教えるからね……」
戸籍《こせき》上も渋谷ジェニファーになっちゃうとこだった。
わりとスムーズにことは運び、あたしたちは半年後に結婚した。
アーカンソーの州立病院で長男が生まれたときにも、あたしはすっかり据《す》わった目で、第一声からこう|訊《き》いた。
「……は……羽根は……っ?
」
「……残念ながら」
心の底から悔《くや》しがりつつ、リベンジを|誓《ちか》う妻に向かって、ダンナは申し訳なさそうに、垂れた|目尻《めじり》を一層下げた。
日本から駆《か》けつけた渋谷家の祖父は、初めての|曾孫《ひまご》の誕生にとても満足げだったが、|息子《むすこ》が魔族の一員であるのかどうかは、ダンナにもあたしにも教えてくれなかった。
勝利《しょうり》が一歳を過ぎた頃《ころ》、会社はようやく邦人《ほうじん》社員をボストンに呼《よ》び戻し、郊外《こうがい》の一軒《いっけん》家《や》で暮らせることになった。
でも、困ったことが一つ。
古き良き大都市はレッドソックスのお膝元《ひざもと》で、ダンナのベースボール熱を再燃させてしまったのだ。
|暇《ひま》さえあれば長男をボールパークに連れて行き、グッズを買い試合を観《み》せサイン会に並んだ。
父親似の野球|狂《きょう》に育てようとして。
けれど、勝利が興味を示したのは、ポップコーンと球団マスコットの着ぐるみだけ。
半ば洗脳気味の幼児教育だったのに、どうして野球好きでもスポーツ好きでも着ぐるみ好きでもなく、ありきたりな優等生に育ってしまったのか、あたしにも今もって理解できない。
あとで息子に聞いた話だけど、球団マスコットは可愛《かわい》いというより怖《こわ》かったらしい。
可愛いかどうかの判断基準は、日米で大きな差があったみたい。
雪でも降りそうな曇《くも》った朝、出勤したダンナから自宅に電話がかかってきて、久々にボブと会うことになったと告げられた。
「ボブって|誰《だれ》?
」
『話しただろ?
デニーロ似の|魔王《まおう》だよ』
「魔王なのになんでボブ!
?
」
『知らない。
いつもそう呼ばせてるんだ。
オフィスに着いたらいきなりアポ入ってさ』
呼び名がボブで、自らアポイントメントをとってくるとは、なんともフランクで|庶民《しょみん》的な魔王陛下だ。
「うそっ、じゃあいよいよ魔王陛下のお城にご招待なのね」
ダンナは電話の向こうで怪訝《けげん》そうな声を上げた。
『会うのは値段を聞くと味が分からなくなるような店だよ。
王様ったって城で玉座にいるわけじゃないんだから。
なんだかいつも世界中を飛び回っててさ。
国際的な投資家ってのも考えもんだな』
それは世界|征服《せいふく》のためにだろうか。
「食事するの?
じゃあもちろんあたしも行くのよね」
『いやランチだから、俺だけで』
「え、飲み会だろうがホームパーティーだろうが|女房《にょうぼう》連れの、|驚《おどろ》くほどパートナー同伴《どうはん》社会のアメリカにおいて、あなた独りで来いって言われたの?
」
『うんまあ』
誰にも聞かれていないにもかかわらず、あたしは受話器を持ち直し、声のトーンをぐっと低くする。
「……それちょっと|怪《あや》しくない?
」
『なーにが』
「だって正式な夫婦どころか、すぐに別れるかもしれない|恋人《こいびと》だってエスコートさせる国よ。
なのに奥さんを同席させず、あなただけをお昼ご飯にご指名だなんて、その人なんだか怪しい気がする」
『怪しいかい』
「そうよっ!
もしかしてゲ、ゲ、ゲ」
『の鬼太郎《きたろう》?
』
こんなときに何を|駄洒落《だじゃれ》ているんですか。
「じゃなくてーっ。
もしかしてゲイかもしれないわよ!
?
いやーどうしよう自分の夫がめくるめく世界にーっ。
いい?
何かあったら絶対に教えてよ。
何もなくてもこと細かに報告して」
『……心なしか嫁《よめ》さん、楽しそうだな』
「し、失礼ね、心配してあげてるのに」
結局
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